ユーロ・円や豪ドル・円ランド・円といったクロス円相場が今年に入って上昇基調に振れています。安全通貨ペアであるドル・円が方向感を失っているのとは対照的です。背景にあるのはドル安ですが、市場では他の要因も指摘され始めました。<br/><br/><br/>ドル・円は今年1月から3月にかけての米10年債利回りの上昇に追随し、102円台から110円台へと8.2%も水準を切り上げました。ただ、その後は米長期金利の上げ渋りでドルも下押しされる場面が目立ち、4月に107円半ばに失速。5月から6月にかけては米連邦準備理事会(FRB)による資産買い入れ規模の段階的縮小(テーパリング)への思惑に振らされつつ、再び110円台に浮上しています。<br/><br/><br/>一方、クロス円は一貫した上昇トレンドを形成。1月から5月末までドル・円の上昇率を上回って推移している主要通貨ペアはカナダドル・円(13.0%)、ポンド・円(11.9%)、NZドル・円(8.9%)、豪ドル・円(8.3%)。いずれも資源国通貨の特徴を持ち、ランド・円(18.3%)も同様の理由で強含んでいます。商品相場の上昇を受けたこれらの通貨がクロス円をけん引しているとも言えます。<br/><br/><br/>カナダやイギリス、オーストラリアはいずれも新型コロナウイルスのまん延を抑えているほか、ワクチンの普及により正常化への進ちょくが鮮明で、堅調な経済指標を材料に買いが続きます。どこの国の中央銀行がハト派姿勢を改めるか注目されるなか、カナダ銀行が4月の定例会合で緩和的な金融政策の縮小に初めて言及。他の主要中銀もタカ派寄りで金利高・通貨高の構図が鮮明です。<br/><br/><br/>上昇率でドル・円を下回っているユーロ・円(7.1%)もポンドや豪ドルなどと並んで2018年以来3年超ぶりの高値圏に値を切り上げました。スイスフラン・円(5.4%)は2015年以来約6年ぶりと、記録的な高水準に達しています。やはり、米金利安を背景としたドル安で欧州や資源国、新興国の通貨が押し上げられ、その影響により対円でも堅調地合いになっていると考えられます。<br/><br/><br/>加えて、このところ市場関係者の間でささやかれているのは、日本のコロナ危機後の回復が弱いことを問題視した「日本売り」による円安です。確かに、日本でのコロナまん延が懸念された昨年3月、リスク許容度の低下とともにそれまで買われていた円が一転して売られました。スイスフラン買いの具体的な要因が乏しいにもかかわらず対円で強含んでいるのをみると、それも一理あるように思えます。<br/><br/><br/>ただ、日本での緊急事態宣言の延長による影響は注視されるものの、低水準の物価上昇率は今に始まったことではありません。とはいえ、東京オリンピック・パラリンピック開催が危ぶまれ、そのダメージが読み切れないため円が買いづらいのは事実。だとすれば、「円売り」より「円買い見送り」という方が実態に近いと言えそうです。いずれにしても、ドル安基調が続く限り、クロス円は足元の堅調地合いを維持するとみます。<br/><br/>※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。<br/><br/><br/>(吉池 威)<br/><br/><br/>

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